ある場所①と別の場所②の生物群集(局所群集の間)の種組成の違い(非類似性)は、ベータ多様性と呼ばれます。さらに、ベータ多様性は、局所群集の間の構成種の入れ替わり(turnover ターンオーバ)と構成種の入れ子(nestedness ネステッドネス)の2成分に分解できます。
局所群集①はA種、B種、C種で、局所群集②はD種、E種、F種だった場合、①と②の間で種が入れ替わり種組成が異なる。
このような群集間の種のターンオーバは環境条件の違い、すなわち環境ニッチの違いを反映していると考えられます。よって、ターンオーバ成分は、群集形成におけるニッチ効果の重要性を示す、と解釈します。局所群集①と②では環境条件が全く異なり、ニッチの異なる種が集合した、と推論する。
一方、局所群集①はA種、B種、C種で、局所群集②はA種だけだった場合、②の種組成は①の入れ子と見なせます。
このような群集間の入れ子成分は、環境条件や地理的距離の違いに応じて、櫛の歯が欠けるように構成種が欠落していると解釈する。よって、入れ子成分は、群集形成における分散制限や局所的絶滅の効果を示すと考えます。局所群集②では、何らかの要因で、B種やC種が分散侵入できなかった、あるいは、B種やC種が絶滅した、と推論する。
ベータ多様性のターンオーバ成分と入れ子成分を元に、森林の生い立ちを推論する
今回発表した論文では、分類学的階層性も考慮して、種・属・科・目組成の非類似性を定量し、森林間の地理的距離や気象条件の違いに応じた、ターンオーバ成分と入れ子成分のパターンを検証しました。
その結果、森林群集のベータ多様性は、大まかにはターンオーバ成分で、森林の世界的な多様化は、地理的距離や気候条件の違いによるニッチ効果によることが明らかになりました。
一方、入れ子成分は、温帯林で比較的顕著で、温帯林の多様化には、地域的な絶滅や分布動態に関係した歴史的な分散制限が影響していることが明らかになりました。
さらに、ターンオーバ成分と入れ子成分の相対的重要性は、地域的に異なっていました。例えば、北米・アフリカ・オーストラリアは目・科レベルのターンオーバ成分の距離依存的パターンが顕著で、進化的に深いレベルで森林群集の多様化が見られれました。
以上の結果から、森林バイオームの多様化には、生物地理区に応じた地史や古気候の違いが関係していることが示唆されました。