このような問いに対する、一つの答えとなる論文(以下)を発表しました。
Kubota Y., Shiono T. & Kusumoto B. (2014) Role of climate and geohistorical factors in driving plant richness patterns and endemicity on the east Asian continental islands. Ecography DOI: 10.1111/ecog.00981
内容はプレスリリース、あるいは、Ecography誌のブログでも紹介しています。
生物地理学的に、日本は固有の生物が多く、生物多様性が豊かな地域として知られています。いわゆる、生物多様性ホットスポットの一つです。生物の分類群の中でも植物は、様々な動物の生育場所(ハビタット)の基盤を構成します。よって、植物の多様性は、その他の動物の多様性にとっても鍵となります。私達の研究室では、日本の生物多様性の成り立ちを理解することを目標に、日本に分布する全ての維管束植物種(木本・草本・シダ)の分布を明らかにするプロジェクトを行いました。
各植物種の分布情報を網羅的に収集し、250万ポイント以上にも及ぶ膨大な分布情報をデータベース化しました。最終的に、5600種以上に及ぶ植物の分布地図を作成し、それらを重ね合わせて、日本産維管束植物の種多様性地図を完成させました。要した時間は5年です。
このプロジェクトを通してわかったことは、日本の自然史研究の層の厚さ、裾野の広さです。日本には植物に関係する多くの研究者がいます。それに加えて、各地にアマチュアの植物愛好家がいて、そのような方々が、地元の植物の分布などを丹念に記載しています。私達のプロジェクトでは、植物に関わる市民科学者(シチズン・サイエンティスト)の全貌も、結果的に、明らかにしたことになります。通常、生物の分布情報は、地域間でデータ量に大きな違い(地域バイアス)があります。日本の植物の分布情報にも、地域バイアスは確かに存在するのですが、他の国で報告されているような極端なバイアスはありませんでした。つまり、日本中、あちらこちらで、植物好きな人たちのシチズン・サイエンティスト的な活動があり、長い年月をかけて、知らず知らずのうちに、日本の生物多様性を克明に定量できるような知見が集積されていたのです。
私達の論文では、「日本の植物多様性の起源と維持」に関する進化生態学的な議論を展開しています。一方、論文には書けないことで、なおかつ、言っておきたいこととして「日本の自然史研究の層の厚さ、裾野の広さこそが、進化生態学の発展には不可欠である」ということを、このブログで強調しておきたいです。