「データベースの構築と活用から見えてきた! 新しい生物多様性のサイエンス」
私の講演では、日本の生物多様性データの分析結果を紹介しました。それに対して、「このような大規模なデータを構築できるような技術的イノベーションが何かあったのか?」という質問がありました。その質問に、私は「強いて言えば、インターネット上で文献情報を容易に閲覧できるようになったこと・・・」と答えました。技術的イノベーションといった大げさなものはない、ですね(笑)。
今までの日本の生態学で、情報科学的アプローチが一般的でなかった理由は、「生態学に集う人たちの性質」による部分が大きい、と私は考えています。生態学分野には、「自然大好きなナチュラリスト」が集まります。生態学者=実際にフィールドに出て、生物と接していることが大好きな人達、です。よって、生態学者=情報科学(バーチャルワールド)には、最も縁遠い人たち、という具合になります。結果、不運にも「膨大かつ隠れた生態学的情報」を一元的に解析できるデータセットにまとめ上げるような研究活動が促進されませんでした。生態学でも「データベース構築」と称したプロジェクトを耳にするようになって久しいです。しかし、科学的な目標設定が希薄だと、科学的に利用可能なデータベースは構築できませんし、大規模データを活用した研究も進みません。
私は、野外調査・実験に依存した「生態学の古典的な研究アプローチ」に、「情報科学的なアプローチ」を導入して、日本の生態学の幅を広げることを考えています。生態学的ビッグデータを構築することは、今まで、生態学からは縁遠かった人たちを引き込むことになり、「生態学の人的多様性」を増大させるでしょう。