私の研究室では、昨年、日本の維管束植物の種多様性地図、および、森林生態系の機能特性指標地図を完成させました。頭脳循環プロジェクトでは、沿岸域の海洋生物(サンゴ・魚類など)の多様性地図を作成します。これにより、陸域の人為撹乱による生態系機能の改変と、沿岸海洋域の生物多様性保全を統合的に分析できる見込みです。具体的には、1)日本周辺海域の海洋生物の分布・系統・機能情報を用いて、沿岸海洋の生物多様性パターンの進化生態学的形成メカニズムを解明する;2)海洋生物多様性パターンを考慮した海洋保護区(MPA)の適正配置(prioritization)を分析する;3)陸域と海域における社会経済活動と生物多様性保全のトレードオフ関係の分析と、それらを多目的に最適化するシナリオを提案する。
JSPSの国際交流事業「頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム」で、「海洋生物多様性の進化生態学的形成プロセスと保全に関する国際共同研究」を行うことになりました。昨年秋に採択され、急ピッチで諸事進めています。今年1月の国際生物地理学会で、既に、イシサンゴ群集を多様性指標にしたMPA配置分析の結果を発表したのですが、興味深い結果が得られつつあります。
私の研究室では、昨年、日本の維管束植物の種多様性地図、および、森林生態系の機能特性指標地図を完成させました。頭脳循環プロジェクトでは、沿岸域の海洋生物(サンゴ・魚類など)の多様性地図を作成します。これにより、陸域の人為撹乱による生態系機能の改変と、沿岸海洋域の生物多様性保全を統合的に分析できる見込みです。具体的には、1)日本周辺海域の海洋生物の分布・系統・機能情報を用いて、沿岸海洋の生物多様性パターンの進化生態学的形成メカニズムを解明する;2)海洋生物多様性パターンを考慮した海洋保護区(MPA)の適正配置(prioritization)を分析する;3)陸域と海域における社会経済活動と生物多様性保全のトレードオフ関係の分析と、それらを多目的に最適化するシナリオを提案する。 琉球大学熱帯生物圏研究センターの成果報告会で、以下のような講演をします。
生物多様性パターンの形成機構を探る:群集系統学的アプローチの可能性 現代的な進化生態学の枠組みを理解する上で、MacArthur & Wilson(1967)の“島の生物地理の理論”、Hubbell(2001)の“生物多様性の中立理論”は重要である。MacArthur & Wilson(1967)は、大陸からの移入率と島における絶滅率に着目し、島の生物多様性が動的平衡として維持されることを予測した。それまでの生態学は、ナチュラリスト的な現象記載が中心だったのに対して、彼らの研究アプローチは、パターンの背後に潜む一般法則を探索するもので、生態学が“自然科学としての体裁”を整えることに、決定的な貢献をした。さらに注目すべきは、島の生物地理の理論が、生物多様性のパターン形成における“歴史の効果”を浮き彫りにする帰無モデルとして機能した点である:生物多様性パターンにおける動的平衡からの逸脱を検証可能にした。一方、Hubbell(2001)の“生物多様性の中立理論”は、大陸を種プール、島を局所群集に置き換え、“島の生物地理の理論”をより一般化したシステムへ拡張した。その上で、中立理論は、種プールにおける歴史の効果を種分化、種プールから局所群集への分散のパラメータを明示的に組み込み、種個体数分布、種数面積関係、ベータ多様性など、一連のマクロ生態学的パターンを定量的に予測するメカニスチックモデルとして機能することになる。 今日の進化生態学は文字通り、究極的プロセスである生物多様性の歴史的起源と、至近的プロセスである生態学的維持を統合的に扱うことになる。特に最近、生物の分子系統情報が急速に蓄積され、実データに基づいて、種分化、絶滅、分散、種のソーテイングの諸プロセスを機構論的に解析できる状況にある。そこで本講演では、生物群集の種組成や分布情報に、種の系統情報を併せた群集系統学的研究アプローチを紹介する。従来、系統分類学者と生態学者は、究極的プロセスと至近的プロセスを分業して検証してきた。群集系統学は、両者の垣根を取り払うアプローチで、系統分類学と生態学の従来的研究手法の見直しを迫る。例えば、生物の進化履歴である系統学の成果は、個々の分類群に特化した範疇に留められるべきなのだろうか。また、系統の解明は、非類似性に焦点を当てるのみで、単に還元論的に進められるだけでよいのだろうか。あるいは、生物群集の集合様式を考える場合、群集を構成する種の歴史的由来は先験的に、前提条件として扱われるだけでよいのだろうか。群集系統学的アプローチは、これらの問いに対して、いずれも「そうではない」ことを明示する。本講演では、琉球諸島、東アジア島嶼、全球、それぞれの空間スケールにおける3つの事例を通して群集系統学的アプローチの可能性を示す:1)琉球諸島の地理的特徴が、樹木群集の歴史的多様化に及ぼした影響(トカラ線とケラマ線の相対的重要性)、2)東アジア島嶼が生物ホットスポットになった進化生態学的理由、3)バイオームの生物多様性の緯度勾配と大陸間アノマリー。 |
Authorthink-nature.jp久保田康裕(Google Scholar) Archives
July 2023
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