”The twelve operationally important decisions in offsetting: why biodiversity offsets may fail”
スタンダップコメディのように、会場から人を演台にあげて、研究の概念をユーモアを交えて説明したり、とても真似のできないような講演でした。
フィンランドで開催されたヨーロッパ保全生物学会に出席してきました。北欧はいい季節でした。 ヘルシンキには一日滞在しました。ヘルシンキ大学の共同研究者の方とお話をして、翌日は鉄路で、学会開催地のユバスキュラへ向かいました。 ヨーロッパ保全生物学会ではイルカ・ハンスキー教授を記念した賞を設けていて、今回の大会では、フィンランドのアッテ・モイラーネン先生が受賞されました。私たちの研究グループもモイラーネン先生と共同研究をさせて頂いているのですが、あらためて凄い研究者であることを認識しました。生物多様性オフセットに関する受賞講演が素晴らしかったです。
”The twelve operationally important decisions in offsetting: why biodiversity offsets may fail” スタンダップコメディのように、会場から人を演台にあげて、研究の概念をユーモアを交えて説明したり、とても真似のできないような講演でした。 デンマーク・オーフス大学のエコインフォマティクス生物多様性研究室(Section for Ecoinformatics and Biodiversity)を訪問して、共同研究者のウルフさんらと会議をしてきました。全球スケールの樹木種の多様性パターンや化石情報を用いた多様性の歴史動態に関して、予備解析結果を元に今後の論文化の方針を議論しました。また、セミナーをさせてもらった上に、フィールドエクスカーションにも連れて行って頂き、とても有意義でした。エコインフォマティクス生物多様性研究室は、マクロ生態学分野の世界的な拠点で、スベニング教授が主催しておられます。研究室は博士院生からポスドクも合わせると70名も在籍しているそうです。水曜日午前は10時からbreakfastミーテイングでパンをかじりながらの歓談会です(以下の写真)。ランチョンミーテイングはよくありますが、ブレックファーストミーテイングもあるのですね。 デンマークにも、今後しばしば訪問することになりそうです。
この論文では、森林群集の種組成情報(種アバンダンスデータ)を全球スケールで収集してデータベース化して、群集系統学的な分析をしました。具体的には、森林を構成する樹木種の系統的クラスタリングを計算して、生物地理区の間で比較しました。系統的クラスタリングとは系統的に近縁な種が群集を構成していることを意味し、系統に付随しているであろう特性が類似した種(生態学的ニッチが類似した種)が局所的にソートされていること表す指標として用いられます。したがって、局所群集で観察される系統的クラスタリングは、種プールから局所群集が形成されたプロセスに、環境フィルター効果による種のソーテイング(ふるい分け)が作用していることを示唆します。この論文では、系統的クラスタリングが一貫して卓越していることを明らかにしました。興味深い点は、全球種プールからの種のソーテイング(ふるい分け)プロセスにおいて、系統的クラスタリングが顕著だったことです。地域種プールレベルでは、系統的クラスタリングは有意ではありませんでした。これらの結果は、局所的な森林群集の歴史的な成り立ちに、全球スケールの種プール効果が作用していることを意味します。 さらに、この論文では、森林プロット間の系統的ベータ多様性(非類似性)を計算して、世界中の森林が進化的にどのように多様化してきたのかを分析しました。以下のグラフは、森林の系統的類似性を色で示しています。シンボルが同じ色の森林は、群集系統的に類似していることを示しています。 熱帯林と温帯林が系統的に異なる群集であることが明らかですが、熱帯林と温帯林それぞれが、大陸間で歴史的に多様化していることがわかります:熱帯ではプロット間の系統的非類似性が大きく、温帯ではプロット間の系統的非類似性が小さい。これは、熱帯林と温帯林それぞれの起源と歴史的分散の違いや、大陸分断の影響などを示唆しています。 また、東アジア温帯林は相対的に東南アジア熱帯林と類似していることが明らかで、Out-of-Asia仮説(Donoghue 2008)を支持するような結果が示唆されました:アジアでは多様な系統が起源して熱帯から分散し、それが東アジアを経由して、全球の温帯に広がった? 私たちが野外で森林群集を調査する場合、プロット内の種組成(多様性)をローカルな環境要因だけで考えがちです。しかし、実は、バイオームの歴史的起源や、別の大陸の森林の多様性、大陸分断など、全球スケールの進化的プロセスが反映されているというのは、想像もできないことです。 森林モニタリングで樹木を同定して測定する時に、歴史生物地理学的な点にも思いをはせて調査をすれば、面白いアイデアや発見があるかもしれません。 この論文は、田中友恵さんの修士研究として行い、千葉大の村上研究室の皆さんと共同して進めました。田中さんは、千葉大のサイハンナさんと一緒に、樹木の葉の化学特性(タンニンとフェノール)の分析(とても時間のかかる実験)を頑張って主導してくれました。この論文では、低緯度における樹木の被食者防御が卓越するという”“low latitude–high defense” hypothesis”を、葉の物理的機能特性と化学的機能特性の緯度勾配パターンに基づいて検証しました。落葉性樹木(DB)と常緑性樹木(EGB)では、葉の機能特性の緯度勾配にコントラストがあることを示して、両者の葉寿命の違いから、被食者防御に対する投資戦略の違いを議論しています。
|
Authorthink-nature.jp久保田康裕(Google Scholar) Archives
July 2023
|