その結果、最終氷期最盛期(LGM)2万6000年前は、海面が現在より130m以上低く、陸橋の出現により海洋生物相が孤立し、陸橋島が大陸に接続されていたこと、最終氷期の終わりには、海面がかつてない速さで上昇し、沿岸の後退、陸橋が水没し、島嶼部の縮小を引き起こしたこと等が明らかになりました。
今後、全球スケールの海面上昇・低下のデータを用いて、海洋および島嶼の生物多様性の形成プロセスを検証する予定です。
歴史的な海面変動は、陸の平野部や沿岸の浅海域の面積(生物の生息エリア)に影響を及ぼし、陸と海の生物の分布や絶滅や進化に影響を与えたと考えられます。そこで、私たちは、過去2万6000年前から、海水面がどのように変動したのかを世界スケールで地図化しました。
その結果、最終氷期最盛期(LGM)2万6000年前は、海面が現在より130m以上低く、陸橋の出現により海洋生物相が孤立し、陸橋島が大陸に接続されていたこと、最終氷期の終わりには、海面がかつてない速さで上昇し、沿岸の後退、陸橋が水没し、島嶼部の縮小を引き起こしたこと等が明らかになりました。 今後、全球スケールの海面上昇・低下のデータを用いて、海洋および島嶼の生物多様性の形成プロセスを検証する予定です。 文部科学省「海洋資源利用促進技術開発プログラム 海洋生物ビッグデータ活用技術高度化」のプロジェクト、海洋生物多様性ビッグデータ汎用化の基盤技術と海の豊かさを守る応用技術の開発(Ocean180)のホームページを公開しました。
と言っても、「メンバー紹介」ページが、現在、作成中で、今週末完成予定です。 「どういう生き物がどこに分布しているのか」そのような類の疑問を探求するナチュラルヒストリーの調査や、生態学の基礎研究は、ビジネスセクターの人にとっては「何の役に立つの?」と思われる対極的な事柄だったと思います。
しかし、今、ビジネスが、生態学の基礎的知見に頼る状況になりつつあります。 企業活動が拡大し尽くすとこまで行きついて、つまり基礎科学とは逆方法に、ビジネスが一周回りきって、生態学の背中が視野に入ったような状況。 そういう訳で「ネイチャー・ポジテイブを実現する鍵は、ビジネスとサイエンス(生物多様性に関わる基礎・記載研究)の融合」と、最近言うことにしています。 ビジネスが生態学と、うまくランデブーしてネイチャー・ポジテイブへ向かうためには、私たち研究者サイドの工夫や仕掛けも必要と感じています。 企業サイドが受け入れ可能で、なおかつ、科学的に実効性のある情報やソリューションの提案です。 生物多様性ビッグデータとマクロ生態学の理論を基にして、ビジネスセクターのネイチャー・ポジティブ アクションの実効性を評価する手法を開発しました。 今回は、積水ハウスの庭木植栽事業「5本の樹」の成果を、都市の生物多様性再生の観点から評価しました。この分析枠組みは、都市緑化だけでなく、森林、里山、里海の藻場再生まで、陸と海の様々な場所の生物多様性保全再生事業の実効性評価に適用できます。 ビジネスセクターの「生物多様性の取り組み」や「投資家による企業行動の評価」において、事業プランや、事業成果の実効性が、客観的に数値化・定量化され、同じ尺度で比較できることが不可欠です。 今回提案したような、データに基づいた科学的評価アプローチは、生物多様性に関する企業の財務価値化を、十分に支援できると確信してます。
文科省の公募の「海洋資源利用促進技術開発プログラム 海洋生物ビッグデータ活用技術高度化」に採択していただき、「海の豊かさを守る」ための10年プロジェクト“Ocean180”をスタートしました。 海洋生物多様性ビッグデータ汎用化の基盤技術と海の豊かさ を守る応用技術の開発 2021年1月から「国連海洋科学の10年(United Nations Decade of Ocean Science; UNDOS)」が始まりました。UNDOSでは、海の豊かさを未来へ引き継ぐため、「きれいな海」、「健全で回復力のある海」、「生産的な海」、「魅力的な海」などの社会目標を設定し、今後10年で、これらの目標達成に取り組みます。私たちのプロジェクトは、これに対応したもので、SDG14「海の豊かさを守る」ことに貢献します。 ちなみに、プロジェクト名のOcean180は「劣化する海の状況を反転し改善させる」という願いをこめたネーミングです。 海洋生物多様性ビッグデータと統計モデルや人工知能(AI)を用いて、海の生態系を見える化し、多セクターと協働して、実効性のある海の保全再生アクションを推進したいと思います。 若手中堅の素晴らしいメンバーの皆さんとの協働なので、今後の展開が楽しみです。関係者の皆様、10年もの長期間になりますが、よろしくおねがいします。
ポスト2020枠組みでは、2030年までに、地球の陸と海の30%以上を自然環境エリアとして保全する目標「30by30」が設定されます。 そこで、私たちの研究チームでは、日本の自然保護区を30%まで増やすことによる生物多様性の保全効果(実効性)を定量しました。 この塩野さんの論文では、日本の生物多様性地図データ(J-BMP)を用いて、現在の保護区の実効性、および、今後、30%まで保護区拡大した場合に期待される実効性を評価しました。 ここでいう”保全の実効性”とは、生物絶滅の抑止効果や生物多様性消失の抑止効果、を意味します。 2つの保護区拡大シナリオ(国有林に保護区を拡大する保全計画と民有地なども含めて保護区を拡大するOECM)を想定して、生物多様性ビッグデータを基に、各シナリオの保全の実効性を評価しました。 すると、既存の保護区(国土面積約20%)から、"効果的に"保護区配置して30%まで拡大すると、維管束植物・脊椎動物種の相対絶滅リスクを3割減する効果が見込めることがわかりました。 特に、里山や都市の民有地の保全優先エリアを保護区にすると、絶滅リスクを現状よりさらに3割以上削減する効果がある一方、国有林に保護区を拡大しても、絶滅リスクの削減効果はほとんど見込めない、ことが明らかでした。 これらの結果から、国有地などに公的保護区を設置する従来型のトップダウン的な保全計画は不十分で、市民や民間企業による、身近な自然を保全するボトムアップ的な保全措置が重要であることが示されました。
今後、30by30の達成に向けて、従来とは異なるオルタナティブな保全手法(OECM:other effective area-based conservation measures)が重要になります。保全と様々な土地利用との共用を図るランドシェアリング型の保全アプローチです。 詳細な解説は、こちらのプレスリリースをご覧ください。 地球の陸と海の30%以上を自然環境エリアとして保全する「30by30」の実効性を科学的に評価 世界自然遺産に登録される、ヤンバルの森の動画を作成してみました。 空撮エリアは、国頭村の長尾橋から比地川の上流にかけて、与那覇岳の周辺、大国林道、西銘岳の周辺です。 まず最初に、日本の外来植物(1094種)の分布と、日本在来の植物(4664種)の分布を、種ごとに網羅的に地図化しました。 そして、外来種それぞれの原産地(生物地理学的な由来)を可視化しました。 次に、日本各地を見渡して、外来種の多い地域(外来種ホットスポット)や外来種の種組成や、外来種と在来種の系統的な関係(近縁なのか遠縁なのか)を定量し、群集系統の構造を可視化しました。 外来植物は、原産地の気候環境に対応した地域に侵入しつつも、在来群集のニッチ空間や人為活動による土地改変にも関係して、日本国内に侵入していました。 全外来種を含めて見ると、以下のように大都市に外来種ホットスポットが集中していることがわかりました。 ある地域の外来種の侵入には、その外来種の原産地、侵入先の気候環境、在来生物群集の生物学的抵抗(空きニッチの量)などが関係していると考えられています。 そこで、外来種ホットスポットが形成される仕組みを理解するために、外来種の原産地グループごとに、外来種数を決定する要因を、パス解析で検証しました。 パス解析の結果から、以下の点が明らかになりました。
日本の地理区と同じ原産地の外来種の場合、日本の地域の気温に適応して侵入し、同時に、人為活動による土地改変にも関係して、日本国内に外来種ホットスポットを形成していました。 一方、日本の地理区と異なる原産地の外来種は、気候などの環境条件とは無関係で、人為活動による土地改変に関係して、日本国内に外来種ホットスポットを形成していました。 ある場所における外来種の種数の多さ、すなわち、外来種ホットスポットを指標にして、地域的な外来種の侵入のしやすさを考えると、外来種の侵入可能性は、外来種の生物地理学的な由来(原産地)と、在来生物群集の生物的・気候環境要因の組み合わせで、決定されていることが明らかになりました。 これらの結果からは、今後の温暖化によって、熱帯由来の外来植物が日本の北部地域へ分布拡大すること、あるいは、都市化による土地改変が外来種の由来とは無関係に生物学的侵入を加速させることが、予想されました。 この研究成果は、外来生物の侵入メカニズムに関する「ダーウインの難題」を解明した、以下の論文の続編です。 ベータ多様性とは?
ある場所①と別の場所②の生物群集(局所群集の間)の種組成の違い(非類似性)は、ベータ多様性と呼ばれます。さらに、ベータ多様性は、局所群集の間の構成種の入れ替わり(turnover ターンオーバ)と構成種の入れ子(nestedness ネステッドネス)の2成分に分解できます。 局所群集①はA種、B種、C種で、局所群集②はD種、E種、F種だった場合、①と②の間で種が入れ替わり種組成が異なる。 このような群集間の種のターンオーバは環境条件の違い、すなわち環境ニッチの違いを反映していると考えられます。よって、ターンオーバ成分は、群集形成におけるニッチ効果の重要性を示す、と解釈します。局所群集①と②では環境条件が全く異なり、ニッチの異なる種が集合した、と推論する。 一方、局所群集①はA種、B種、C種で、局所群集②はA種だけだった場合、②の種組成は①の入れ子と見なせます。 このような群集間の入れ子成分は、環境条件や地理的距離の違いに応じて、櫛の歯が欠けるように構成種が欠落していると解釈する。よって、入れ子成分は、群集形成における分散制限や局所的絶滅の効果を示すと考えます。局所群集②では、何らかの要因で、B種やC種が分散侵入できなかった、あるいは、B種やC種が絶滅した、と推論する。 ベータ多様性のターンオーバ成分と入れ子成分を元に、森林の生い立ちを推論する 今回発表した論文では、分類学的階層性も考慮して、種・属・科・目組成の非類似性を定量し、森林間の地理的距離や気象条件の違いに応じた、ターンオーバ成分と入れ子成分のパターンを検証しました。 その結果、森林群集のベータ多様性は、大まかにはターンオーバ成分で、森林の世界的な多様化は、地理的距離や気候条件の違いによるニッチ効果によることが明らかになりました。 一方、入れ子成分は、温帯林で比較的顕著で、温帯林の多様化には、地域的な絶滅や分布動態に関係した歴史的な分散制限が影響していることが明らかになりました。 さらに、ターンオーバ成分と入れ子成分の相対的重要性は、地域的に異なっていました。例えば、北米・アフリカ・オーストラリアは目・科レベルのターンオーバ成分の距離依存的パターンが顕著で、進化的に深いレベルで森林群集の多様化が見られれました。 以上の結果から、森林バイオームの多様化には、生物地理区に応じた地史や古気候の違いが関係していることが示唆されました。 |
Authorthink-nature.jp久保田康裕(Google Scholar) Archives
July 2023
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