自然史ビッグデータ科学:生物多様性情報を駆使した進化生態学的一般理論の探求(代表研究者)
ダーウインは地球上の多様な生物を目の当たりにし、”生物多様性の起源と維持”に関する生物の進化理論を提案しました。それ以来、自然史の枠組みにおいて、生物に関する地理分布、遺伝子、生理、機能、生態特性が記載され、今やその膨大な情報は“進化生態学的ビッグデータ”と見なすことができます。このような、ミクロスケールからマクロスケールにわたる情報の記載・蓄積の原動力の一端は、古典的なマクロ生物学の研究動機にあります。生物多様性に魅了された生物学者が「個々の生物の個性や例外性を基にして、多様な生物が織りなすパターンを“多様な理論”で説明したい」と願望する研究動機です。一方、地球上の全生物は進化系統的な一本の樹(Tree of Life)として遡上合祖する集合体で、その歴史的多様化プロセスや発現するパターンは、全ての分類群に共通したメカニズムが基盤になっているはずです。このような観点において、“進化生態学的ビッグデータ”は、従来的なマクロ生物学の研究動機を革新化する可能性を示しています。つまり、究極的な命題「地球上で観察される生物多様性パターンの起源と維持に関する一般法則(general theory)の解明」に取り組む機会を与えています。そこで、本研究では、“自然史情報を駆使した進化生態学的一般法則の解明”を目標にし、海外の主要な自然史研究機関と国際共同研究ネットワークを構築し、生物の分類、分子系統、地理分布、生理特性、および、生息地の気候・地質特性などの物理環境情報を整備します。そして、“進化生態学的ビッグデータ”を共同解析し、惑星スケールの超長期の環境変動から今日的な人為活動による環境変動と、生物多様性パターンの応答関係を解明することを目指します。
環境変動に対する生物多様性と生態系サービスの応答を考慮した国土の適応的保全計画(代表研究者)
本研究では、日本の主要な生物分類群(維管束植物・哺乳類・鳥類・両生類・爬虫類・淡水魚類・沿岸海水魚類・昆虫)の分布情報および進化生態学的な基礎情報(系統・機能特性)を地図化し、気候変動や土地水域利用に関係した環境変動に対する生物多様性パターンの応答を定量する。そして、生物多様性情報と社会経済活動(人口や経済指標)に関する時空間情報を、システム化保全計画法の枠組みで統合的に分析し、原生的自然生態系の保全、里山・人工林・沿岸里海生態系の管理、野生生物管理、希少種保全、外来種管理など、日本の環境行政上の主要ニーズを体系化した様々なシナリオ分析に基づいて、生物多様性保全に関する政策オプションを提案する。これにより、気候変動に対する生物多様性と生態系サービスの応答を考慮した、適応的保全計画を推進する。
太平洋イシサンゴ類の保全生物地理学:系統分類バイアスを考慮した群集形成機構の解明(代表研究者)
本研究では、太平洋域の造礁イシサンゴ類を対象に、種レベルの系統分類・地理分布に関する海外調査を行い、以下の3点を解明する:1)イシサンゴ各種の系統分類学的な不確実性(種間の誤同定の確率)を定量する;2)種の誤同定確率分布を考慮した群集形成プロセスの識別モデルを開発し、太平洋におけるイシサンゴ多様性パターンを、不確実性も含めて解明する;3)イシサンゴ多様性の保全効果を最大化する海洋保護区の空間的優先配置分析(spatial prioritization analysis)を行う。これらの結果に基づき、太平洋域におけるサンゴ礁生物多様性の保全策を提案する。
生態学的ビッグデータを基盤とした生物多様性パターンの予測と自然公園の実効力評価(代表研究者)
日本で開催された第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)では、2020年までに保護区を世界の陸域の少なくとも17%まで広げるという戦略目標が設定され、生物多様性保全に有効な保護区設定に向けた学際的な取り組みが国際的に広く求められている。特に、日本は生物多様性ホットスポットの一つとして、早急な保全対策が要求されている地域である。近年、様々な生物多様性情報(生物の地理分布、系統、機能特性など)が急速に蓄積されつつあり、それは生態学的なビッグデータとなりつつある。生態学的ビッグデータは、ローカルからマクロに至る様々な時空間スケールでの、生物多様性の起源と維持に関する分析を可能にする。したがって、広域的な生物相の進化的形成プロセス、地域的な生物群集の生態学的形成プロセスを統合的に理解した上で、実効性のある生物多様性の保全策を提案できる状況にある。この研究では、生態学的ビッグデータを基盤とした分析を行い、日本の生物多様性のパターンと環境変動に対する適応可能性の予測を行う。
東アジアの生物多様性の起源と維持:群集形成プロセスの階層的作用機構(代表研究者)
この研究では、東アジア島嶼をモデルシステムとし、生物多様性パターンの起源と維持のメカニズムを解明する。第一に、種の地理分布と分子系統データを収集し、日本の生物多様性データベースを完成させる。第二に、局所スケールからマクロスケールに至る種の集合パターンを解析するための統計モデル(群集集合の帰無モデル)を、新規に開発する。これら大規模データと統計モデルを用い、生物多様性の進化的多様化プロセスと生態学的群集形成プロセスを統一的に分析する。最終的に、種の放散と絶滅、分散制限、環境フィルタリング、種間相互作用の相対的重要性を定量し、生物多様性パターン形成に関与する究極要因と至近要因の、スケール依存的な階層的作用機構を明らかにする。
海洋生物多様性の進化生態学的形成プロセスと保全(分担研究者)
近年、サンゴ礁生物多様性の劣化が懸念されており、海洋保護区(MPA: marine protected area)による海洋生物の保全が、国際的課題となっている。本研究では、サンゴ礁生物多様性を対象にし、生物の系統・地理分布、社会経済活動の現況に関する調査を行い、以下の3点を分析する:1)現状のMPA配置を決定している生態学・経済的な要因分析;2)現状のMPAから漏れている生物多様性を保護網に組み込むためのMPAの新設・配置転換スキームの検証;3)MPAの設置や管理に関する経済コストを最小化し、かつ、サンゴ礁生物多様性の保全効果を最大化するMPAの国際的な配置シナリオ分析。これらの分析結果に基づき、サンゴ礁生物多様性のマクロ的保全戦略を提案する。
ニッチ適応と非平衡性に基づく中立理論の拡張と保全生態学への適用(代表研究者)
生物群集の中立理論は、生物多様性の形成機構を検証する帰無モデルとして発展している。平衡性を仮定した中立理論は、人為影響が群集形成に及ぼす影響を定量できる可能性を秘めており、保全生態学への導入も期待されている。この研究では、中立理論をニッチ適応と非平衡性の視点で拡張したモデルを新規に開発する。これにより、系統的制約・エネルギー量・攪乱の観点から、あらゆる生物分類群(微生物・維管束植物・無脊椎動物・脊椎動物)に一貫したパターン形成の多様化機構(進化生態学的な一般則)を解明する。最終的に、人為攪乱を非平衡要因と捉え、生物多様性パターンの劣化プロセスを、非中立とゼロサム緩和モデルの枠組みで診断するアセスメント手法を提案し、保全生態学における中立理論の有用性を明示したい。
ダーウインは地球上の多様な生物を目の当たりにし、”生物多様性の起源と維持”に関する生物の進化理論を提案しました。それ以来、自然史の枠組みにおいて、生物に関する地理分布、遺伝子、生理、機能、生態特性が記載され、今やその膨大な情報は“進化生態学的ビッグデータ”と見なすことができます。このような、ミクロスケールからマクロスケールにわたる情報の記載・蓄積の原動力の一端は、古典的なマクロ生物学の研究動機にあります。生物多様性に魅了された生物学者が「個々の生物の個性や例外性を基にして、多様な生物が織りなすパターンを“多様な理論”で説明したい」と願望する研究動機です。一方、地球上の全生物は進化系統的な一本の樹(Tree of Life)として遡上合祖する集合体で、その歴史的多様化プロセスや発現するパターンは、全ての分類群に共通したメカニズムが基盤になっているはずです。このような観点において、“進化生態学的ビッグデータ”は、従来的なマクロ生物学の研究動機を革新化する可能性を示しています。つまり、究極的な命題「地球上で観察される生物多様性パターンの起源と維持に関する一般法則(general theory)の解明」に取り組む機会を与えています。そこで、本研究では、“自然史情報を駆使した進化生態学的一般法則の解明”を目標にし、海外の主要な自然史研究機関と国際共同研究ネットワークを構築し、生物の分類、分子系統、地理分布、生理特性、および、生息地の気候・地質特性などの物理環境情報を整備します。そして、“進化生態学的ビッグデータ”を共同解析し、惑星スケールの超長期の環境変動から今日的な人為活動による環境変動と、生物多様性パターンの応答関係を解明することを目指します。
環境変動に対する生物多様性と生態系サービスの応答を考慮した国土の適応的保全計画(代表研究者)
本研究では、日本の主要な生物分類群(維管束植物・哺乳類・鳥類・両生類・爬虫類・淡水魚類・沿岸海水魚類・昆虫)の分布情報および進化生態学的な基礎情報(系統・機能特性)を地図化し、気候変動や土地水域利用に関係した環境変動に対する生物多様性パターンの応答を定量する。そして、生物多様性情報と社会経済活動(人口や経済指標)に関する時空間情報を、システム化保全計画法の枠組みで統合的に分析し、原生的自然生態系の保全、里山・人工林・沿岸里海生態系の管理、野生生物管理、希少種保全、外来種管理など、日本の環境行政上の主要ニーズを体系化した様々なシナリオ分析に基づいて、生物多様性保全に関する政策オプションを提案する。これにより、気候変動に対する生物多様性と生態系サービスの応答を考慮した、適応的保全計画を推進する。
太平洋イシサンゴ類の保全生物地理学:系統分類バイアスを考慮した群集形成機構の解明(代表研究者)
本研究では、太平洋域の造礁イシサンゴ類を対象に、種レベルの系統分類・地理分布に関する海外調査を行い、以下の3点を解明する:1)イシサンゴ各種の系統分類学的な不確実性(種間の誤同定の確率)を定量する;2)種の誤同定確率分布を考慮した群集形成プロセスの識別モデルを開発し、太平洋におけるイシサンゴ多様性パターンを、不確実性も含めて解明する;3)イシサンゴ多様性の保全効果を最大化する海洋保護区の空間的優先配置分析(spatial prioritization analysis)を行う。これらの結果に基づき、太平洋域におけるサンゴ礁生物多様性の保全策を提案する。
生態学的ビッグデータを基盤とした生物多様性パターンの予測と自然公園の実効力評価(代表研究者)
日本で開催された第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)では、2020年までに保護区を世界の陸域の少なくとも17%まで広げるという戦略目標が設定され、生物多様性保全に有効な保護区設定に向けた学際的な取り組みが国際的に広く求められている。特に、日本は生物多様性ホットスポットの一つとして、早急な保全対策が要求されている地域である。近年、様々な生物多様性情報(生物の地理分布、系統、機能特性など)が急速に蓄積されつつあり、それは生態学的なビッグデータとなりつつある。生態学的ビッグデータは、ローカルからマクロに至る様々な時空間スケールでの、生物多様性の起源と維持に関する分析を可能にする。したがって、広域的な生物相の進化的形成プロセス、地域的な生物群集の生態学的形成プロセスを統合的に理解した上で、実効性のある生物多様性の保全策を提案できる状況にある。この研究では、生態学的ビッグデータを基盤とした分析を行い、日本の生物多様性のパターンと環境変動に対する適応可能性の予測を行う。
東アジアの生物多様性の起源と維持:群集形成プロセスの階層的作用機構(代表研究者)
この研究では、東アジア島嶼をモデルシステムとし、生物多様性パターンの起源と維持のメカニズムを解明する。第一に、種の地理分布と分子系統データを収集し、日本の生物多様性データベースを完成させる。第二に、局所スケールからマクロスケールに至る種の集合パターンを解析するための統計モデル(群集集合の帰無モデル)を、新規に開発する。これら大規模データと統計モデルを用い、生物多様性の進化的多様化プロセスと生態学的群集形成プロセスを統一的に分析する。最終的に、種の放散と絶滅、分散制限、環境フィルタリング、種間相互作用の相対的重要性を定量し、生物多様性パターン形成に関与する究極要因と至近要因の、スケール依存的な階層的作用機構を明らかにする。
海洋生物多様性の進化生態学的形成プロセスと保全(分担研究者)
近年、サンゴ礁生物多様性の劣化が懸念されており、海洋保護区(MPA: marine protected area)による海洋生物の保全が、国際的課題となっている。本研究では、サンゴ礁生物多様性を対象にし、生物の系統・地理分布、社会経済活動の現況に関する調査を行い、以下の3点を分析する:1)現状のMPA配置を決定している生態学・経済的な要因分析;2)現状のMPAから漏れている生物多様性を保護網に組み込むためのMPAの新設・配置転換スキームの検証;3)MPAの設置や管理に関する経済コストを最小化し、かつ、サンゴ礁生物多様性の保全効果を最大化するMPAの国際的な配置シナリオ分析。これらの分析結果に基づき、サンゴ礁生物多様性のマクロ的保全戦略を提案する。
ニッチ適応と非平衡性に基づく中立理論の拡張と保全生態学への適用(代表研究者)
生物群集の中立理論は、生物多様性の形成機構を検証する帰無モデルとして発展している。平衡性を仮定した中立理論は、人為影響が群集形成に及ぼす影響を定量できる可能性を秘めており、保全生態学への導入も期待されている。この研究では、中立理論をニッチ適応と非平衡性の視点で拡張したモデルを新規に開発する。これにより、系統的制約・エネルギー量・攪乱の観点から、あらゆる生物分類群(微生物・維管束植物・無脊椎動物・脊椎動物)に一貫したパターン形成の多様化機構(進化生態学的な一般則)を解明する。最終的に、人為攪乱を非平衡要因と捉え、生物多様性パターンの劣化プロセスを、非中立とゼロサム緩和モデルの枠組みで診断するアセスメント手法を提案し、保全生態学における中立理論の有用性を明示したい。