3月は札幌の日本生態学会大会とポルトガルの国際生物地理学会をハシゴ参加してきました。生態学会では、台湾の共同研究者をお招きして、生物多様性推定に関する企画集会を行いました。どの講演も興味深くとても勉強になりました。特にAnne Chao先生(台湾精華大学)の講演を直に聞けたことは有意義でした。Anne Chao先生とは昨年秋から共同研究を開始しました。東アジアや全球スケールの植物種の分布情報を用いた多様性推定について、現在、プロジェクトを進めています。Anne Chao先生は、分類学的多様性、機能的多様性、系統的多様性を理論的に、effective numberの観点から統合することを進めておられます。私は、これら多様性指標を統合する生態学的意義に興味があります。種ラベルも種の特性値も、そもそも系統的に多様化したものなので、これら3つの指標は階層的には一元化できると思います。この問題について、Anne Chao先生と議論できたので生産的でした。なお、今年10月に琉球大学で、Anne Chao先生らを招聘して、生物多様性のマクロ生態学的パターン形成に関する国際シンポジウムを開催する予定です。興味ある方は、是非、参加して下さい。 ポルトガル・エボラの国際生物地理学会(IBS)は、気候変動に焦点を当てた集会でした。大会の3日間を「過去」、「現在」、「未来」の3つに分けて、それぞれについてシンポジウムや講演が行われました。「過去」は化石などの古生物情報を用いて、歴史的な気候変化が生物の絶滅や分布に及ぼした影響を分析するアプローチで、「現在」や「未来」は、種の分布モデルを用いて気候変化の影響を定量、予測するアプローチです。どの講演も刺激的でした。私たちのグループは、生態学会の直後だったのでポスター講演にしたのですが、IBSにしてはしっかり時間をとってポスターセッションをしてくれたので、いろいろな人たちと議論できたのでよかったです。個人的にも、お話ししたい研究者と一通り面談してネットワーク拡大できたので生産的でした。それにしても、わざわざポルトガルまで片道25時間以上かけて行ったのですが、開催地のエボラ以外は全く何も見ないで帰ってきたのが残念でした。ちなみに、エボラは天正遣欧使節団が立ち寄った町で、日本人ゆかりの場所です。高校生の時に読んだ「少年賛歌」(三浦哲郎 著)でも、エボラ滞在のくだりが出てきたような記憶があります。 日本生態学会大会と国際生物地理学会をハシゴしたので、日本と海外の研究アプローチのコントラストを、あらためて感じました。生態学の研究アプローチの両極を、1)野外調査や実験による経験論的(エンピリカル)アプローチ、2)抽象的な概念に基づいた理論的アプローチと定義すると、これら1と2の両極の間に、抽象的な概念や理論を、実データ(既存情報)で検証するマクロ生態学的アプローチ(80年代以来のマクロ生態学の発展を受けた近代的な生物地理学)が位置付けれるのかもしれません。日本の場合、エンピリカルアプローチと数理的(理論)アプローチの両極が卓越しているのは間違いなく、その間をつなぐような研究アプローチが全く欠落しているように思います。この両極卓越的なアプローチの断続的な状況は、日本の生態学の厚みが今ひとつなこと(研究者の数は多いけれども多様性がない=相対的に同じようなアプローチでやっている?)と密接に関係しているのかもしれません。ちなみに、ロバート・マッカーサーは、抽象的な概念や理論のど真ん中に軸足をおいて、両極(野外調査と数理モデル)それぞれに研究アプローチを展開して、近代生態学の枠組み(生態学アプローチの連続体)を構築した人なのでしょう。欧米では、マッカーサー的ど真ん中軸足、両極展開的な研究スタンスが、生態学界のコアな枠組みであり続けているのですが、日本の場合、その全体的な枠組みが導入できなくて、両極アプローチがバラバラに定着したことが不運だったのかもしれません。私の研究グループの目論見としては、局所スケールからマクロスケール研究を統合的に推進することなので、このような日本の生態学の特異性が再認識できたことも収穫だったかもしれません。
国際シンポジウム:アジアの植物多様性と保全 Plant biodiversity in Asia: macroecological patterns and conservation planning3/13/2018
アジアの植物多様性と保全に関する国際シンポジウムを、琉球大学とキュー王立植物園(イギリス)で共同開催しました。どれも素晴らしい講演で、今後の共同プロジェクトを進める上で理想的なキックオフ集会になりました。シンポジウム後の懇親会、ヤンバル方面へのエクスカーションも、とてもよかったです。 アジア熱帯林・温帯林の種プール属性を評価して、アジアの地理的勾配に伴うフロラ多様性の起源と維持メカニズムを解明するプロジェクトを推進していきます。
研究室の皆さんもお疲れ様でした。 |
Authorthink-nature.jp久保田康裕(Google Scholar) Archives
July 2023
|