私たちのプロジェクト「自然史ビッグデータ科学:生物多様性情報を駆使した次世代型の進化生態学若手研究者の育成」では、地球上の生物多様性パターン形成に関する一般理論を探求することを、大きな目標に掲げました。そして、15カ国(地域)20機関と連携して、若手研究者の派遣と海外機関か共同研究者を招聘を通して、研究を推進しました。
連携した海外機関は、以下のようになりました。
Royal Botanic Gardens, Kew (Kew王立植物園:RBG Kew)、Smithsonian National Museum of Natural History (スミソニアン自然史国立博物館:Smithsonian NMNH)、University of Santiago de Compostela(サンティアゴ・デ・コンポステーラ大学:USC)、Instituto de Ecología AC Mexico(INECOL)、University of Auckland(オークランド大学:UOA)、The University of Hong Kong(香港大学:HKU)、Nicolaus Copernicus University(ニコラウス・コペルニクス大学:UMK)、University of Helsinki(ヘルシンキ大学:UH)、National Taiwan University(台湾大学:NTU)、City University of New York(ニューヨーク市立大学:CUNY)、Aarhus University(オーフス大学:AU)、National Tsing Hua University(台湾・国立清華大学:NTHU)、University of Canterbury(カンタベリー大学:UC)、University of Birmingham(バーミンガム大学:UBir)、Far Eastern University(ファー・イースタン大学:FEU)、University of Neuchâtel(ヌーシャテル大学:UniNE)、Royal Botanic Gardens Victoria(ビクトリア王立植物園:RBG Victoria)、University of Maryland(メリーランド大学:UMD)、Nanjing Forestry University(南京林業大学:NJU)、University of Amsterdam(アムステルダム大学:UvA)
海外連携者の日本への招聘回数と滞在日数の推移を見ると、1年目は台湾、英国、デンマークから9名・延べ68日、2年目は台湾、フィンランド、ニュージーランド、中国、英国、ニュージーランドから10名・延べ116日、3年目は台湾、ニュージーランド、中国、英国、スイス、オーストラリア、米国から12名・延べ299日となっている。本事業期間の海外共同研究者の日本における滞在総日数は、合計483日になりました。
このプロジェクトで最も大変だったのは、これら招聘の事務作業とゲストの対応でした。旅行代理店のような仕事と、ゲストとの共同研究を両立させるのに、とても苦労しました。研究室事務の方にサポートしていただいたおかげで、何とかできました。
プロジェクトのスタート時点で、6つのサブテーマを設定して、研究の進捗と国際ネットワーク拡大に対応して、研究課題を派生的に多様化させました。研究の発展の様子は、以下に列挙したような研究課題の系統樹として表すことができました。若手派遣研究者を主軸として、国際共同研究が戦略的に推進されたことがわかると思います。
研究成果についても、JSPSから客観的な指標に基づく自己評価が求めらたので、発表論文数と発表論文のインパクトファクターの時系列パターン(事業開始時の2018年から終了年の2020年まで)を元に、研究成果の評価分析をしてみました。
2018年以降のインパクトファクターの増加パターンは線形に近く、前年までの成果を着実に積み上げて発展させれたことがわかります。 一方で、論文数の増加率は年々大きくなっていて、プロジェクトのサブテーマから、複数の関連する共同研究プロジェクトが派生し、それらの成果が着実にアウトプットされていることもわかります。
外部有識者の評価結果(取りまとめコメント)
●目的と成果の因果関係が明確でない
●科研費に集約することを検討すべき
●事実調査を踏まえた上で、人材育成という別の効果を狙った事業として再構築する余地はある。
JSPSが支援している海外派遣の方法には、頭脳循環プログラムのような「組織支援型」と、海外特別研究員のような「研究者個人支援型」があり、それぞれにメリット・デメリットがあると思います。これについては、JSPSからヒアリングもされました。以下は、私の回答の一部です。
「組織支援型」のメリット:大規模な研究プロジェクトを推進する上で有効。実際、大きな目標の元に多数の研究課題を展開して、個人レベルではできない共同研究や国際ネットワークを構築できます。さらに、同時的に複数の若手研究者を養成できるメリットがあります。
「組織支援型」のデメリット:研究プロジェクト全体として焦点を絞れずに、派遣研究者の個別研究に終始するリスクがあります。例えば、組織型の場合、海外に赴くこと自体に事業目的が矮小化されてしまって、「とりあえず、海外に行って、好きな研究やっといて」で終わってしまいがちかもしれません。
「個人支援型」のメリット:研究者個人のアイデアと裁量に研究推進が委ねられるので自由度が高く、当該分野の研究者コミュニティーにおける研究の多様性を強化できます。
「個人支援型」のデメリット:個人レベルの場合、自分のやりたいことに活動が限定されるでしょう。結果的に、比較的幅の狭い視点や個人的研究になってしまい、国際ネットワーキングを構築することは難しいかもしれません。
以上をまとめると、研究グループの国際的研究を支援する場合、規模の大きなプロジェクトで国際ネットワーキングを推進する「組織支援型」のメリットと、研究の多様性を強化する「研究者個人支援型」のメリットを、それぞれ相補的に組み込んだプログラムが効果的なのでしょう。事業の組み立てと評価軸の開発に、研究現場や研究者の実態が、十分に届いていないから、プログラムがうまく機能していないように評価されるのかもしれません。。。
私たちのプロジェクトでは、「組織支援型」と「研究者個人支援型」の海外派遣事業のメリットをいいとこ取りして、組織的に国際ネットワークの規模を拡大しながら、若手派遣研究者の個別課題を戦略的に支援して、プロジェクト内における個人研究の多様性を強化できたと思います。