様々な古気候条件に特徴づけられる地質年代を横断した化石群集の記録は、現在進みつつある地球温暖化に対する生物多様性の将来変動をよりよく理解するのに役立ちます。そこで、新生代の日本列島で発見された被子植物の化石記録を網羅的に収集して(7,468データポイント、95科310属)、新生代の各年代(漸新世、中新世、鮮新世、更新世、最終氷期、完新世、現代)の木本属多様性を、ベータ多様性(地域間の組成の違い)の観点から分析しました。
漸新世、中新世、鮮新世、更新世、最終氷期、完新世、現代を俯瞰して、冷涼な気候条件と温暖な気候条件がベータ多様性(属組成のターンオーバー)の距離依存性に与えた影響を検証しました。
木本属組成ターンオーバーの距離依存関係をモデル化すると、属のターンオーバーは、寒冷化が卓越した最終氷期、完新世、現代においてのみ、地理的・気候的距離と有意な相関がありました。温暖期である漸新世から鮮新世にかけては、属のターンオーバーは地理的距離とほとんど無関係でした。このことから、寒冷気候による環境フィルター効果によって、日本列島全域の木本植物群集の地域的多様化が促進されたことが示唆されました。さらに、温暖で安定した気候では分散制限が解放されることが示唆されました。この結果から、現在温帯環境にある日本の森林群集は、温暖化に伴って、地域的な多様性パターンが地理的に均質化されうることが推察されました。