「よその土地での帰化に成功した植物は、一般にその土地の原産種の近縁種であると、予想されるかもしれない。なにしろ原産種は、その土地のために特殊創造され適応した種と見なされているからである。あるいは、帰化植物は新しい生息地の中の特定の場所に、特に良く適応した少数のグループに属していると予測したくなる」
このダーウインの見解は、在来種の系統に近縁な外来種ほど在来種と類似した生態学的特性を有しているので、在来群集の環境に適応して侵入しやすいという、pre-adaptation hypothesis仮説と呼ばれます。
しかし、ダーウイン はこの見解の後に、「ところが実際にはそうではない・・・」と、真逆の仮説をデータに基づいて示します。
ダーウイン は「合衆国北部の植物相便覧」の帰化植物属を見て、その多く(100属/162属以上)が土着(在来)でないことを発見します。ダーウインはこの結果を元にして、系統的に遠縁な(異なる属)の種間では、生態学的特性があまり類似していないので、外来種が土着種との競争で有利になり帰化しやすいという、naturalization hypothesis仮説(在来種と系統的に異なる外来種が帰化しやすい)を提案します。
これら2つの仮説(Naturalization 仮説とPre-adaptation仮説)は相矛盾するので、ダーウインの難題(Darwin's conundrum)と称されます。なお、ダーウイン は以下のようにも述べています。
「よその土地で土着種と闘争して帰化に成功した動植物の性質を調べれば、土着種同士の間で相手よりも優位に立つために遂げるべき変化について、何がしかのヒントが得られるだろう」
つまり、外来種の侵入メカニズムは、今後の課題ということで、ダーウインは後世の研究者に問いを残したわけです。
今回発表した楠本さんの論文では、以下のような枠組みで「ダーウインの難題」の解決しました。
「ダーウインの難題」とは、生態学的ニッチの異なる側面から、外来種の侵入メカニズムを見ていたことになる、という主張です。アルファニッチ適応によるnaturalizationプロセスで侵入成功する外来種もいれば、ベータニッチ適応によるpre-adaptationプロセスで侵入成功する外来種もいるということで、組み合わせ的には4つの侵入シナリオが想定されます。
このような見方を示唆する論文は以前にもあったのですが、私たちの論文のように体系立てて、外来種侵入シナリオに関するダーウインの難題を検証して、和解させた研究は今までありませんでした。
日本に侵入した外来植物(1094種)各種が、naturalizationなのか?pre-adaptationなのか?を検証する上で、重要な役割を担ったのが、系統フィールド(phylogenetic field)という種ベースの群集系統学的分析アプローチです。
このプロジェクトでは、系統フィールドアプローチを提唱したFabricio Villalobosさん(メキシコ)と協働して、概念的な部分の議論を繰り返して草稿を練りました。そのおかげで、査読者からも賞賛されて、ほぼ一発で受理でした。今回発表の論文は、ロジカルにとても面白い内容に仕上がったと思います。