私の研究室では、生物多様性ビッグデータを基盤とした生物種同定アプリケーションを検討していたのですが、一昨年度から株式会社富士通研究所と共同して開発を進めてきました。これに関連して、富士通研究所と私の所属する琉球大学が、本アプリケーションに関係する技術について知財ライセンス契約を締結して、さらなる開発を推進していくことになりました。
生物多様性条約や、それに基づいた具体的な戦略計画である愛知目標「生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」が設定されています。生物多様性を保全するためには「どの種が、どこに、どれくらい分布しているのか」という基本的な情報が不可欠です。本研究室では、日本産の維管束植物や脊椎動物やサンゴなど約6000種におよぶ種の空間分布情報をデータベース化し、各種の日本全土における分布確率を可視化するプラットフォームを構築しました。このような生物多様性の情報基盤を活用した生物種の検索同定アプリケーションは、生物多様性研究の基盤インフラとして、あるいは地域の生物多様性を保全するための環境アセスメントや環境教育のツールとして活用されることが期待されます。
今までは、生物の種を検索して種名を同定する場合、様々な図鑑を用いることが一般的でした。しかし、多くの図鑑は特定の地域や、特定の生物分類群に偏っており、網羅性や完全性が必ずしも十分でありません。例えば「ある種を検索しても、所持している図鑑にその種が掲載されていないので、結局、種が同定できない」とか「自分が住んでいる地域の図鑑が出版されていない」といった問題です。私たちが構築した生物多様性データは、日本産の維管束植物と脊椎動物を全て網羅しているので、従来の図鑑を用いた生物種の検索や同定作業を一新すると思います。
生物多様性の情報基盤を活用した生物種の検索同定アプリケーションでは、まず、1)検索する人が今いる地点で、潜在的に分布している生物種のリストが瞬時に生成され、その上で2)観察している生物種の特徴をキーにして同定したい種を絞り込んでいきます。一連の検索から同定までのプロセスは、スマートフォンやパソコンなどを通じで行うことができます。これにより、日本のどの地域でも、あらゆる植物や脊椎動物の種同定が可能になります。