Kusumoto B., Shiono T., Konoshima M., Yoshimoto A., Tanaka T. & Kubota Y. (2017) How well are biodiversity drivers reflected in protected areas? A representativeness assessment of the geohistorical gradients that shaped endemic flora in Japan. Ecological Research 32 (3), 299-311. オープンアクセス:https://link.springer.com/article/10.1007/s11284-017-1451-6
※この研究は、環境省の環境研究総合推進費(生態学的ビッグデータを基盤とした生物多様性パターンの予測と自然公園の実効力評価)の援助を受けて行います。
生物多様性を保全する政策として、保護区ネットワーク(自然公園など)を設定して、環境を改変するような開発行為等を規制するのが一般的です。しかし、「生物多様性」の概念自体が比較的新しく、さらに、生物多様性の情報(例えば、生物多様性の固有性や特異性が秀でている地域はどこか?)といった基本的な情報が不足しているのが普通です。実際に保護区を設置する場合、利害関係者と調整しつつ、経験的な情報(有識研究者の知見など)に基づいて、保護区の空間的な配置が決定されます。
したがって、現状の保護区の配置が、生物多様性を保全する上で、どの程度の実効性があるのかを「進化生態学的データ」に基づいて評価する必要があります。これにより、現状の保護区ネットワークでカバーされていない保全重要地域が特定でき、保護区の新設等の政策提案ができます。
この論文では、日本の維管束植物を生物多様性の代理指標(サロゲート)にして、現状の保護区が植物多様性を、どの程度うまくカバーできているのかを分析し、現状の保護区から漏れている保全重要地域(プライオリテイーエリア)を明らかにしました。
予想していたことですが、現状の保護区は生物多様性をうまくカバーできておらず、むしろ、社会経済的な都合で配置されていることが判明しました。
COP10で設定された愛知ターゲットでは、生物多様性保全の実効力を強化するための戦略計画の策定を掲げています。したがって、愛知ターゲットに基づいた国家戦略が策定され、それを受けて地方自治体レベルの地域戦略の策定も行われています。地域戦略の多くが「保護区の新規設置または見直し」を掲げています。私たちの論文の結果は、このような地域戦略を実行するための基礎的知見を提供しています。
なお、この論文では、維管束植物の多様性に基づいた分析を行っていますが、理想的にはあらゆる生物分類群を対象にした分析を行う必要があります。これについては、続編の論文で結果を発表する予定です。植物だけでなく、脊椎動物(哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・淡水魚)の生物多様性を網羅的に地図化したデータを完成させ、それを用いた「空間的保全優先地域の順位付け」(spatial conservation prioritization analysis)を行っています。続編については、論文が受理されてからお知らせしたいです。