世界のブナ10種を見ると、種の分布レンジサイズとニッチ幅には正の相関がなく、種間で気候耐性にも違いがなく、つまり、祖先の気候ニッチを未だ保守している可能性が示唆されました。ブナ属内の種間で、ニッチが地域的に未だ十分に多様化(進化)していないことが明らかになりました。興味深い結果です。
なお、この論文が掲載される雑誌の表紙は、世界のブナ10種の写真をアレンジした、素晴らしい表紙になる見込みです。
現在、ブナ属の各種は、日本を含む東アジア、北米東部、ユーラシア大陸西部に、世界的に分断分布しています。
世界のブナ10種を見ると、種の分布レンジサイズとニッチ幅には正の相関がなく、種間で気候耐性にも違いがなく、つまり、祖先の気候ニッチを未だ保守している可能性が示唆されました。ブナ属内の種間で、ニッチが地域的に未だ十分に多様化(進化)していないことが明らかになりました。興味深い結果です。 なお、この論文が掲載される雑誌の表紙は、世界のブナ10種の写真をアレンジした、素晴らしい表紙になる見込みです。 生態学の法則に「Taylorのべき乗則」があります。これは、個体群の密度の分散が、密度の平均値とべき乗関係にある、すなわち、平均と分散の両対数の関係が直線式にしたがうというものです。
生態学では、様々な統計量を元に、個体群や群集の成り立ちを推論します。特に、平均を元に議論されることが多いのですが、分散がとてもな統計量であると古くから指摘されています。最近、“return of the variance”といって、分散の重要性が改めて議論されつつあり、Taylorのべき乗則は、生態学における分散の持つ意味を考えさせる法則です。 それで、今回発表した論文では、Taylorのべき乗則を、種の機能特性値の群集レベルの平均と分散に適用して分析しました。 Taylorのべき乗則の当てはまりは機能特性によるというもので、Taylorのべき乗則は、必ずしも、群集レベルの種間分散をうまく説明するモデルではないという、興味深い結果でした。
野外で観測した生物分布データには様々なバイアスが含まれます。発見しやすい生物もあれば、見つけにくい生物もいます。また、 研究者の人数(密度)が、生物分類群によって違うので、たくさんの地点情報が集積されている分類群もあれば、情報が十分でない分類群もあります。また、地域によっても生物分布の情報量は異なります。アクセスしにくい地域は調査が困難なので、 生物分布情報が限られます。このような、生物分類群や生物種あるいは地域の間のデータ(情報量)の不均一性は、種数のような生物多様性の定量にも影響します。いずれにしても、生物多様性の数量を把握する場合、統計学的な推定が必要です。 今回発表した論文では、日本の植物分布データを活用して、幾つかの推定方法(Chao2、種数−面積関係、種アバンダンスなど)で種数の空間パターンを定量しました。その結果、Chao先生提唱の推定手法が適切なこと、さらには、日本の生物分布データはとても完全性が高く、推定方法の違いにあまり影響されないことも明らかになりました。 ちなみに、生物分布データの完全性評価については、J-BMP(https://biodiversity-map.thinknature-japan.com)でも公開しており、日本の生物分布情報の充実度が高いレベルにあることがわかります。
奄美・徳之島・ヤンバル・西表島が世界自然遺産に登録されることがきっかけで、西表島の森林調査プロットが、環境省のモニタリングサイト1000の長期観測サイトの一つになりました。先週から調査を開始しました。調査風景を動画にまとめてみました。 生物多様性ビッグデータのプロジェクト成果として、安原さん(香港大)をはじめとした海外の海洋生物研究者との共著論文がPNASに掲載されました。とても刺激的な国際共同研究で、今後の展開も楽しみです。 この研究の背景には、基礎科学と社会的な面での意義があります。 地球上には、生物の種数が豊かな地域、生物多様性ホットスポットがあります。また、陸や海の様々な生物分類群に共通して、生物種数は熱帯で豊富で、高緯度にいくにつれて種数が少なくなる「生物多様性の緯度勾配」と呼ばれるパターンがあります。 このような生物多様性パターンの起源と維持に関するメカニズムの解明は、ダーウイン以来の進化生態学の最も重要なテーマです。 同時に、最近では、気候変動による地球温暖化の進行が、生物多様性ホットスポットに及ぼす影響が懸念されています。 ですので、気候変動適応や生物多様性保全といった社会的観点からも、生物多様性パターンの将来を予測することが緊急の課題になっています。 このような背景を元に、この論文は「地球表面の大部分をおおっている地球上最大のバイオーム、海洋(漂泳区)」を対象に分析しました 海洋生態系の基盤には、酸素や有機物を生産する植物プランクトン、それを捕食する動物プランクトン、さらに食物連鎖の上位には魚類や哺乳類などの捕食者がそれぞれ位置しており、人間にとっての生物資源(水産物)の供給源にもなっています。 海洋生態系の生物多様性は、気候変動による脅威にさらされており、人間社会への影響も懸念されています。このような観点から、この研究は海の原生動物である浮遊性の有孔虫に焦点を当てて、海の生物多様性の歴史を分析し、将来の生物多様性がどのように変化するのかを予測しました。 地球の気候は、約2万年前の最終氷期の後、じょじょに暖かくなり、自然の温暖化が進行していました。下図の世界地図(AとB)には、最終氷期から産業化以前1800年代にかけての海水温の分布が示されています。赤道付近の水温が温暖化する様子がわかります(地図では赤色が濃くなっていることで、水温が上昇していることが示されています)。さらに、人間の産業活動によって、人為影響による地球温暖化が進行しています。下図の世界地図Cを見ると、100年後の未来の海水温は世界規模で上昇し、特に赤道付近の熱帯で海水温が急速に高温化すること(赤色がとても濃くなっていること)が予測されています。 そこで、私たちは、地球上に分布している浮遊性有孔虫(約40種)の化石記録をマッピングして、最終氷期の約2万年前から1800年代(産業化以前)、現代までの有孔虫種数の世界的な分布変化を調べました。 そして、赤道付近熱帯の暖かい海から、高緯度の寒冷な海まで、有孔虫の種数(生物多様性)を地図化しました。 さらに、2万年前(最終氷期)から1800年代(産業化以前)の“自然の気候温暖化”が進行する時代における、有孔虫の種数(生物多様性)の緯度勾配パターンを分析しました。 そして、海水温データを用いて、有孔虫の種数を説明する統計モデルを構築して、赤道(熱帯)から高緯度の極にかけて、有孔虫の種数が100年後の未来にどのように変化するのかを予測しました。 下の図は、有孔虫の化石記録を元に有孔虫種数を世界地図に示した結果です。最終氷期の約2万年前から1800年代(産業化以前)にかけての生物多様性のパターンを把握できます。 最終氷期では、有孔虫の種数が豊かなホットスポットは赤道付近の熱帯で、海の生物多様性には明瞭な緯度勾配があります。
グラフのAからBにかけては、最終氷期の後から1800年代以前までに相当し、 “氷期後の自然の気候温暖化”にともなって赤道域の種数の落ち込みが徐々に進行していることが理解できます。 このような浮遊性有孔虫の種数の変化は、自然の温暖化によって引き起こされる種の分布の変化が原因です。 ところが、人間の産業活動による“人為的な地球温暖化”が加速すると、100年後の未来にかけて(グラフのBからCにかけて)種の分布が急激に変化して、赤道域の種数が落ち込み、熱帯の生物多様性が急速に衰退することがわかります。 この論文で明らかになった「地球温暖化と熱帯の生物多様性の減少の間の明確な関連性」は、人間社会が今まで通りの産業活動を継続して二酸化炭素を排出し温暖化が進行した場合、赤道における海洋の生物多様性が、今世紀末までに人類の歴史において前例のないレベルにまで、劣化する可能性があることを示唆しています。 陸や海の様々な生物分類群に共通して、低緯度の熱帯で生物種数は豊かで、高緯度にいくにつれて生物種数が少なくなる“生物多様性の緯度勾配”と呼ばれるパターンがあります。広域的な生物多様性パターンの形成の仕組み(メカニズム)の解明は、ダーウイン以来の進化生態学の最も重要なテーマです。 近年、気候変動による地球温暖化の進行が、熱帯のような生物多様性ホットスポットに及ぼす影響が懸念されています。したがって、気候変動適応や生物多様性保全といった社会的観点からも、生物多様性パターンの将来を予測することが緊急の課題になっています。このような観点から、海の生物多様性の変動の歴史を明らかにした論文を発表しました。 このプロジェクトは、香港大学の安原さんとの国際共同研究で、今後の展開もとても楽しみです。
その紹介記事が出ましたので、ご覧ください。 |
Authorthink-nature.jp久保田康裕(Google Scholar) Archives
July 2023
|